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第59章 奪還作戦

『――無かった事にすればいいんだよ』

　突然、中野の言葉が蘇り、ほなみの胸が痛くなる。

　――無かった事に？
　西君との出会いや、クレッシェンドの皆や綾波さんとの出会いも、思い出も何もかもを無かった事にできる……？

　ほなみは、行進するかの様に颯爽と歩く浜田の後ろ姿をぼんやり見ながら自問自答する。
　
　ーー西君の悪戯な表情、蕩ける様な甘い眼差し、彼に抱き締められた時の、身体がフワリと浮いてしまいそうな幸福感――
　
　すべて忘れるなど、無理な気がした。
　けれど、この思いを押し通す事で、色んな人を傷付けてしまう。
　ほなみは、綾波の後ろ姿を見て、彼を手当てした時に見た背中の傷を思い、唇を噛んだ。
　
（もしかしたら、西君が同じ目に遭っていたかも知れない。
　私のせいで……私の……）

　苦い思いが込み上げてふと立ち止まるほなみに、綾波が気付いて振り返った。