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花の踊り子
第3章 疑惑
土曜日ー…

仕事が午前中で終わり、念入りにメイク直しをする。
仕上げにコーラルピンクのグロスをのせる。
駅の階段を軽やかに駆け上がる。
花はニコニコしながら電車に揺られた。
優が帰ってくるのが嬉しくて、朝からこんな調子で上機嫌なのだ。
ドキドキしながら改札を出るとー…

駅前に優の運転する車が停まっていた。
花が近づいていくと、パワーウィンドウが開く。

「ただいま」

優は運転席から花に声をかけた。

「おかえりなさい」

花はニッコリと笑って答える。
助手席に座り、シートベルトを締めると、不意に目の前に影が差した。

「…ん」

まだ昼間だというのに、突然優が唇を重ねてきた。
車の外では普通に人が行き交っている。
花は頬を染めて優を見上げる。

「…いこっか。」

優はゆっくりと車を発進させた。

「今回はこっちに出張なの?」

「いや、休みだったから、たまには花の顔を見に帰ってきただけだよ」

「そうなんだ。」

花は頬を染めて窓の景色を見ている。
車をパーキングに停め、デバートへ入る。
昼食を摂るため、レストランへ入った。
花はトマトパスタを、優はボンゴレを頼んだ。
そうだった。優はデートでイタリアンへ行くたびにボンゴレを頼んでいたのだった。と、花は懐かしく思う。
こうやってデートするのも久しぶりで、なんだか気恥ずかしい。
でも、一緒に居るだけで、嬉しい。
新婚生活のためにしつらえた部屋で、1人で暮らしていたのだ。
今日は2人でその家に帰れる。

食後のデザートを食べているとき、優がトイレに行くので、席を立った。花はのんびりケーキを頬張っている。
すると、テーブルの上に置いてある優のケータイがメールの着信を伝えた。
見るつもりはなかったが、ふとケータイの方へ目をやると、一瞬、画面が見えてしまった。

「…」

女の人からのメールだった。
しかも、ハートの絵文字が見えた気がする。
胸の中にもやもやとしたものが広がっていく。
思わず、チラリと画面をもう一度見てしまう。

『こないだは楽しかったよ♡
こっちに帰ってきたら、また2人で会おうね♡』

「…。」

優に会えてウキウキだった気持ちが一気にしぼんでいくのを感じた。
(何…今の。 単身赴任先で女の人と2人で会っているの…?)

涙が滲む。
甘い新婚生活を夢見た広い部屋の中でずっと1人で待っていたのだ。
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