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作品集
第11章 平成28年3月度

素晴らしいと思いました。
◆「雄大感動伝説」より
「一本の傘」
雨の土曜日。
当時、私が務めていたカラオケボックスは、中高生のお客様で賑わっていました。夕方になるとフロント
付近は帰宅するお客様で
ごった返し、対応にてんやわんや、その波がひとしきり去りふと入口に目をやると、中学生の女の子がぽつんと一人で立っていました。親が迎えにくるのかなと思っていましたが、十分、二十分経っても、外を見つめたままです。私は彼女に声をかけました。
「迎えを待っているなら、中に入れば?そこじゃ濡れちゃうでしょう」
彼女は頷いてフロントにやってきましたが、どうも
元気がない様子。
「どうしたの?なんだか元気ないね」少しの間を置いて、彼女は小さな声で言いました。
「傘を盗まれちゃったみたいで……」私は事務所から自分の傘を持ってきて、
彼女に渡しました。
「じゃあ、これ使って。
安いものだから返さなくていいよ。傘くらいで、
クヨクヨしないで。元気出して帰りなよ」
少女は軽く頭を下げ、無言で店を出て行きました。
「なんだか変わった子だなぁ……」その翌々日。
店に一通の手紙が届きました。
宛名は私になっていますが、差出人は知らない女性の名前。キャラクター模様の封筒には、丸っこいかわいい文字が並んでいました。同僚から、ファンレターじゃないのかと冷やかされましたが、中身はまったく違いました。
手紙の主は、一昨日、傘を貸した少女でした。
「実は私、友達からいじめられています。あの日もカラオケの部屋でポップコーンを投げつけられたり、
殴られたり……。その子たちと別れた後、もう死んでしまおうと思って、店の入口に立ちすくんでいたんです。そんな時、平野さんに傘を貸してもらって。優しい言葉をかけてもらって、本当にうれしかった…」
便箋四枚にびっしりと綴られた彼女の告白を読み進むうちに、私の表情は硬くなり、
◆「雄大感動伝説」より
「一本の傘」
雨の土曜日。
当時、私が務めていたカラオケボックスは、中高生のお客様で賑わっていました。夕方になるとフロント
付近は帰宅するお客様で
ごった返し、対応にてんやわんや、その波がひとしきり去りふと入口に目をやると、中学生の女の子がぽつんと一人で立っていました。親が迎えにくるのかなと思っていましたが、十分、二十分経っても、外を見つめたままです。私は彼女に声をかけました。
「迎えを待っているなら、中に入れば?そこじゃ濡れちゃうでしょう」
彼女は頷いてフロントにやってきましたが、どうも
元気がない様子。
「どうしたの?なんだか元気ないね」少しの間を置いて、彼女は小さな声で言いました。
「傘を盗まれちゃったみたいで……」私は事務所から自分の傘を持ってきて、
彼女に渡しました。
「じゃあ、これ使って。
安いものだから返さなくていいよ。傘くらいで、
クヨクヨしないで。元気出して帰りなよ」
少女は軽く頭を下げ、無言で店を出て行きました。
「なんだか変わった子だなぁ……」その翌々日。
店に一通の手紙が届きました。
宛名は私になっていますが、差出人は知らない女性の名前。キャラクター模様の封筒には、丸っこいかわいい文字が並んでいました。同僚から、ファンレターじゃないのかと冷やかされましたが、中身はまったく違いました。
手紙の主は、一昨日、傘を貸した少女でした。
「実は私、友達からいじめられています。あの日もカラオケの部屋でポップコーンを投げつけられたり、
殴られたり……。その子たちと別れた後、もう死んでしまおうと思って、店の入口に立ちすくんでいたんです。そんな時、平野さんに傘を貸してもらって。優しい言葉をかけてもらって、本当にうれしかった…」
便箋四枚にびっしりと綴られた彼女の告白を読み進むうちに、私の表情は硬くなり、

