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作品集
第20章 平成28年12月1日
昔から人間は転機が大切だ。だから、卒業式を君の人生の転機としたらどうだ」諄々と道を説く校長の前に、その学生はハラハラと涙を流しながら、今までの悪行を詫び、そしてこれほどまでに、自分のことを見ていてくれた校長先生に対し、心より感動し、先生の為には命まで惜しくないと、教えに従うことを誓った。それをみながら校長は
「そうか判ってくれたか、本当にありがとう。
やはり私の目に狂いはなかった。さあ男は泣くんじゃない」と、学生にハンカチを渡す校長がまた、涙、涙であった。そして最後に
「全校生の中に、君だけが大人物になる素質があり、君の将来こそ、私の唯一の楽しみだ。然し校長としての立場上、君だけ可愛がる訳にはいかないからこそ、鍵をかけ、カーテンを閉めて、他人に判らないようにして話をしたのだ。
いいかい、男と男の約束だ。このことは絶対人に言うなよ」と言って、かたい握手をして別れた。
学生は卒業後、世間でも驚くほどの親孝行者となり、勤勉努力し、校長の予言通り大会社の社長となった。星霜幾十年、すでに白髪になった老校長を囲む会が、盛大に催された。
その席上、かつては不良学生だった社長が立って、卒業1週間前の感動をそのままに、「私はここで、男の約束を破る」と前置きし、あの時の状況を語った。
「私の現在あるのは、あの時の校長先生の一言です。もし、あの感動がなかったら、私はどうなっていた事でしょう」と言って、涙ながらに挨拶しながら、先生のところへ駆け寄っていった。これを聞いていた人々は、一瞬水を打ったような静けさになった。
そして、アッと驚きの顔を見合わせながら「俺も言われた」「僕もだ」と驚きが感動の渦となって広がっていった。思えば、ある人は喫茶店で、ある者は自宅に呼び出されながら、所を変え、時を変えて、その少年の心の中にある“命”の力を引き出したのだ。
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