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偽善者
第1章 偽善者
 そして、わたしは帰り際、おじさんから、また名刺をもらった。
 あの丸顔の、優しそうな笑顔の、切り傷のような目をした、おじさんから。
 半袖Tシャツから伸びる腕に本来の人間の肌でない色のカラフルな絵柄を持つ、あの、おじさんから。
 ヒカルと柴犬が戯れるリビングの向こう側にある部屋で、わたしとさして年の変わらないような、制服だったり私服だったりする少女たちがテレビを見ながら寛いで談笑してる、時折電話が鳴り響くその事務所を経営する、あの、おじさんから。




「死にたくなんか・・・・」




 心の優しいお嬢ちゃん。
 困ったことがあれば、いつでもまたおいで。
 たぶん一週間以内に、きっと困ることが起きるから。
 だから、その時、君が来たければ、おじちゃんのとこにおいで。と。



「死にたくない・・・・」



 もう誰もラッキーみたいな目に遭わせたくないだろ?と。



「死にたくないよ・・・」


 ずーっと、そう。
 幼稚園のとき、君たち家族があのマンションに引っ越してきてからずっと、初めて会ったときから君がずっと好きだった、お隣のお兄ちゃんの身になにか困ったことが起きるならなおさら、自分ではどうしようも出来ないと分かってはいても、どうにかして助けてあげたくなって、いてもたってもいられなくなるだろ?ラッキーの時みたいに。と。



「悠里・・・俺、おれ・・・・」


 
 おじちゃんねぇ、たぶん、君が思うよりもずっと、むかしから、君を見てたんだ。だからね、分かるんだよ。でも君が決めることだからね。君のお父さんはいいお父さんだよ。おじちゃん泣けたよ。でもね・・・へへへ。まぁ、よーく考えるんだ。決めるのは君だからね。へへへ・・・。



「おれ・・・・」


 
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