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偽善者
第1章 偽善者
 ラッキーが死んだとき、わたしは泣いた。




「1おく5せん万」



 
 だってラッキーは、もとはわたしが拾った子犬だったから。




「ゼロが、イチ、ニ、サン」



 あれは3年生のとき。
 雨降りの下校途中だった。
 灰色の靄に包まれた河川敷の土手を歩いていると、高架下にダンボールが落ちているのが見えた。
 そして、その中から子犬が顔を出しているのも。
 気付いたとき、わたしは彼を抱き上げて胸元に抱えていた
 なぜなら、雨に震えてドロドロで、寂しそうにクゥクゥ鼻を鳴らしていたから。




「シ、ゴ、ん?まてよ、五千万だから」




 その姿があんまりにも可哀想だって思って。
 汚い字で「だれかそだててあげてください」って書かれたダンボールも雨で湿ってドロドロで。
 まだお母さんのおっぱいが恋しいだろうに、たったいっぴきで、不安げに、寒そうに、雨の中、ずっと鼻を鳴らして、助けを求めてた、その、小さな存在が、あまりにも可哀想でたまらなくて。
 だから、うちでは飼えないってわかってたのに、抱き上げた小さい体をダンボールの中に戻すことが出来なかった。



「そうなるとゼロが、ええと・・・」


  
 びしょ濡れの身体で震える小さいラッキーをトレーナーのお腹の中に包んで連れて帰った。ベッドの下に隠してたんだけど、ゲロ吐いちゃったせいで、すぐにバレた。
 お母さんもおばあちゃんも、すごく怒ってた。
 ラッキーがゲロを吐いたせいじゃなくて、わたしの行動に対して。
 うちはマンションだから犬は飼えない。
 だから、もとのとこに置いてくるか、代わりに誰か飼ってくれる人を見つけてきなさいって、その晩お父さんに言われた。




「・・・あれ?何個かな?まぁ、どうだっていいや」





 つぎの日クラスのみんな、ううん、先生にお願いして、全学年の全クラスに誰か子犬を飼ってくれないか尋ねに行ったけど、誰ひとりとして雑種の子犬に興味は示したとして、ウチで飼うと名乗り出すものはいなかった。
 近所の人も、知り合いも、みんな同じだった。





「とにかく、そんだけの負債があるんだって、うちの親」




 だから、つぎの日曜日。
 わたしはお父さんと一緒に河川敷に行って、ラッキーを草むらの中に放った。
 ラッキーごめんね、って泣きながら。


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