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偽善者
第1章 偽善者
「ネットで調べてみたんだ。どうにかならないかなと思って。でもどうも、手段がないみたいなんだ。つくづく、バカだよね。これが銀行だったら踏み倒せる手段もあったのに。まさか個人からそんな額の借金をしていただなんて」





 鼻を鳴らしながらいっしょうけんめい追いかけてくるラッキーを、お父さんが冷たく追い払っていた。
 わたしのうしろに立って、何度も、何度も。
 




「弟のヒカルを買い取ってくれたから一千万はチャラにしてくれたんだって。つまりもとは一億六千万の負債。ひとの命って一千万程度なんだね。驚いたよ。それより、ヒカルが去り際笑顔だったことに俺は一番驚いたけどね。でもそれも自分が撒いた負のカルマだと思って受け止めるよ。だって俺、あいつに一度だって兄貴らしいことをしたことなかったもんな。そりゃ、死んで当然と思われていたかも知れない」




 あっち行け、あっち行け、って。





「親もそうだよ。あいつのこと殴ってたもんな。そりゃ、死んで当然だと思われて、当然」




 最後に、もう人間なんか信じるな!って言って、お父さんは追い縋るラッキーを、蹴り飛ばした。





「だからあいつには幸せになって欲しいと思うよ。ちゃんと学校に行って、毎日温かいメシ食って温かい布団で寝て、ちゃんと健全にでかくなって、それで、借金なんかしない大人になって欲しいと思ってる」




 キャイーンって泣いて、草むらの遠くに消えていったラッキーは、もうわたしたちを追いかけては来なかった。




「俺は、自分は今日までの命だったと受け入れてるよ。だって、人間ってのはあの世にいた頃に自分で自分の人生のカリキュラムを決めて生まれてくるんだ。つまり、俺は忘却しているだけで、15歳で一家心中することを決めて生まれてきたってワケ。そう考えたら、なにも悲しくないよね」




 お父さんはラッキーが追いかけてこないのを確認してから。




「忘却してるから今は分からないけど、たぶん、何らか目的を持って夢の途中で死ななければならない人生を自分で選んだんだよ。俺は輪廻転生を信じているから、今世で夢を果たせないのは残念ではあるけれど、でも、来世で果たせたらいいかなっていうある種の余裕もあったりする」




 わたしの頬を叩いた。





「つまり、死ぬことは怖くない。受け入れてる。でも」
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