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水蜜桃の刻
第9章 その声


「え~! 気になるよ!」

「だってどうなるかもわからない相手だから」


ごめんね、と続けると、少し不満そうな顔をしながらも


「でもいつか教えてよね」


そう、引いてくれた。
加奈ちゃんのこういうところ、すごく好きだった。
無理強いしないところ。

ん、と頷く。


「じゃあ本郷のことは」 


そして彼の話を再びふられた私は


「……今はちょっと、考えられない状態かも」


正直に、そう返した。
そっかあ……と加奈ちゃんは呟く。


「本郷ってばタイミング逃したね。
もっと早く動けば透子からOKしてもらえたかもなのに」


あーあ、と声に出し、私を見てくすっと笑った。
私も応えるように少し笑みを返し、そうして思う、そのこと。

むしろ、まだ本郷くんとどうかなる前に先生と会ってよかったのだと思う。
本郷くんと付き合ったあとで再会してしまったら──そんなことを考えたら怖くなった。

だって私はきっと、どんな立場でも先生に惹かれていったに違いないから。


「本郷には言わないの?」

「え?」

「はっきり、無理って」

「……でも、まだはっきりと言われてもないのにこっちからそういうこと言うのって……」


いくら何でもそれはさすがに自意識過剰すぎるんじゃないだろうか。


「まあ、そりゃそうだよね……」


加奈ちゃんは、自分の発言がおかしかったことに今さらながら気づいたようで。


「……なんか私、これから本郷が透子に遠回しなアピールするの見るたびに不憫な気持ちになっちゃいそう」


そう口にしながら、苦笑していた。



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