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水蜜桃の刻
第10章 高揚
溜め息をつき、再び私は歩き出した。
さっきの嬉しさなんてどこに行ってしまったんだろう。
結婚してなくても、彼女がいなくても。
先生にとっての恋愛対象になれなきゃ……でなきゃそんな情報なんて何の意味もない気がした。
それでも私が先生にまた惹かれているのは事実で。
それは、そう、間違いなくて。
だってこの気持ちは、覚えがあるものだから。
先生以外にはこんなふうにならなかった。
私の二度目の恋はもう、始まっている。
……ううん。
10年前から本当はきっと終わってなんかいなくて、こじらせたままだった恋が、また。
溜め息をついた。
あのときの苦しさを今でも覚えてる。
また、あんな思いをするんだろうか。
報われなければきっと、そうなるんだろう。
この10年間の先生のこと、私は何もわからない。
それなのに、好きだなんておかしいだろうか。
私は先生の何を見て、何を知って、好きだなんて思うんだろう。
繰り返す様々な自問自答。
ただ、どうしようもなく惹かれる。
こんな気持ちになるのは先生だけ。
それは答えにはならないんだろうか。
立ち止まって振り向いた先に先生の姿はもうない。
……きっとまた一方通行な私の想い。
溜め息が、漏れる。
そんな少しの切なさを覚えながら、私は前を向いてまた歩き出した────。