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水蜜桃の刻
第10章 高揚


ほんの少しのその不安はどんどんと大きくなっていく。


え……もしかして先生の中では、私はこの先もずっと生徒のままなんじゃないの?


そんな考えが頭をよぎった。
そしてあっという間に頭の中を浸食していく。
次から次へと浮かぶそれらが、さっきまでの浮かれていた気分を消してしまっていくかのように。


先生は生徒じゃなくなった私を好きになってくれることはあるんだろうか。
それとも私は、生徒とか、元生徒とか、ずっとそういう存在でしかないんだろうか。


高揚感は、次第に冷めていく。
ひとりで盛り上がっていた自分が急に恥ずかしくなった。


『生徒と付き合うとか考えたことない』──10年前、そう言って先生は私の想いを拒んだ。
そうじゃなかったら先生に好きになってもらえたかもしれないのに、と……幼かった私は、自分ではどうすることもできない年齢というものを憎んだ。

でも、そもそも先生は私に興味があったの?
そういう関係じゃなければ、先生は私に興味を持ってくれたの?
恋愛対象として見てもらえたの?

たった一度のあのときを思い出す。
明らかにあれは、私が誘った。
先生にお願いして、それで、抱いてもらったんだ。

先生にとって私はただの一生徒。
それ以上の気持ちなんてきっと少しも持ってなかった────。


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