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水蜜桃の刻
第11章 その視線
駅までの帰り道。
先生と並んで歩く。
少しだけ火照った頬に夜風が気持ちいい。
「今日は透子ちゃんの酔った姿が見られるかと思ってたのに、全然だったな」
「え?」
先生が、私にちらりと視線を流した。
どくん……と心臓が跳ねる。
「……私だって、先生のそういう姿見られると思ったのにっ」
ぞくぞくをおさえられないまま、それでも同じような言葉を返した。
ははっ、と笑う先生。
視線が前に戻される。
私はさりげなくを装い下を向いた。
気づかれないように小さく息を吐く。
そして、また先生をそっと見上げる。
……先生、今日はこれでお別れ?
心の中に浮かんだそんな問い。
もっと一緒にいたい。
もっと先生と……もっと。
少し後ろに下がるようにすれば、視界に入ってくる先生の手。
触れたい──そう、思う。
手、だけじゃない。
その腕に縋りつきたい。
その背中に抱きつきたい。
やっぱり少し酔っているのか、そんな衝動ばかりが沸き上がる。
「ん?」
先生が少し遅れている私に気づき、振り向いた。
「どうしたの?」
「え? あ、ううん……!」
足を早め、また先生の横に並んだ。
そのまま先生を見れば、先生も私を見て、ふ……と笑みを返してくれて。
胸が、きゅうっと鳴いた。