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水蜜桃の刻
第11章 その視線
「じゃあ、また」
駅に着き、先生が発したのはそんな言葉。
私が乗るのは、先生と反対方向の電車。
ああ、やっぱり今日はこれでおしまいだった──少し残念な気持ちになる。
『もっと一緒にいたい』
その一言が、なかなか言えない。
昔はあんなことまで言えたのに、と思わず苦笑する。
そう……10年前は。
でも、あんなふうにストレートに先生を求められたのは、若さゆえの無謀さからだ。
今の私にはそんなこと、できそうにない。
だって私は先生が好き。
少しずつでもその距離を縮めたい。
あのときみたいにまったく叶う望みのない想いなら、もしかしたらそうできるのかもしれない。
けれど今は違う。違うと思いたい。
いつか先生にこの想いが通じるかもしれない──その望みは持っていたい。
もちろん、あのときみたいに誘えば先生がそれに応じるなんて、そんなこと思えなかった。
だって状況が、違う。
そして……今さらかもしれないけど、軽い女だと思われたくない。先生には。
だって私は身体だけじゃなくて、先生の心も欲しいから。
そう、どちらも欲しいから────。