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水蜜桃の刻
第11章 その視線
びくっとして、振り向いたそこには
「……待ってよ鈴木さん……!」
本郷くんが、立っていた。
「……何?」
彼を見て、そう聞けば
「どこ行くんですか」
そんなふうに、聞き返される。
「……どこ、って」
真っ直ぐに私に向けられたその視線に、一瞬たじろいだ。
「さっきの人? 来いって?」
「え……」
掴まれた腕。
その力が強くなる。
「あの人、誰ですか」
「……だから知り合いだって────」
「この前の電話の相手ですよね」
私を見つめてくるその目。
強い、視線だった。
「……本郷くんには関係ない」
思わず逸らして呟けば
「関係なくないです」
そんなふうに、返される。
早く先生の元に行きたいのに、そうさせてくれない彼に少し苛立つ。
「……っ、何で────」
腕を振り払おうとしながら、言い掛けたそのときだった。
「俺の気持ち、もう気づいてますよね」
え……?
彼が言わんとしていることを思い、今──? と、私は困惑する。
どうして、今なの?
ただでさえ先生の言動に頭がいっぱいいっぱいなのに。
これ以上、何か起きたら……私、もう。
「俺……鈴木さんのこと好きです」
けれどもそんな私の思いなんてお構いなしに、彼はとうとうそう……口にした。
「だから行かせたくないです……その人のとこになんて」
掴まれた腕に、さらに力が込められる。