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水蜜桃の刻
第12章 切迫
ホテルに着いた私はその番号の部屋へと向かった。
心臓が壊れそうなぐらいの緊張。
手はすでに汗ばんでいた。
先生はどういうつもりで私をここに呼んだんだろう。
そんな素振り、さっきは全然見せなかったのに。
直前のLINEでも、全くそんなかんじはしなかった。
話があるんだろうか。
だとしたら何の話?
いい話? 悪い話?
全く見当がつかない。
それとも……そうなるんだろうか。
そうなったら私はどうするの?
どうしたらいい?
そんなことを延々と考えているといつのまにか、指定された部屋のある階へと辿り着いていた。
……私は先生との関係が進展することを望んでる。
それは確かだ。
でもこんなふうにいきなりホテルに呼び出されるとか考えてもいなかった。
理由をよく考えもしないままに、ここまで来てしまった。
先生に会いたいというただそれだけで。
あまりにも簡単すぎるだろうかと、そう考えてその歩みがふと遅くなる。
進むのを躊躇うかのような足。
でも、理由なんて聞かなきゃわからない。
どんなに考えたって、本人にしかわからない。
部屋のドアの前に、立つ。
それが知りたいならこのドアを開けて先生に聞く──そう、それしかないんだ。
ごくりと、唾を飲みこんだ。
深呼吸を一回。
……それから、ノックをする。
中からは、何の声も聞こえなかった。
自分の心臓の音がうるさすぎるからだろうか──そんなふうに思いながら、もう一度、そうする。