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水蜜桃の刻
第13章 その身体
「だったら」
先生が屈み込んで、私の耳元に唇を寄せた。
囁かれた言葉に、心臓が大きく波打つ。
顔を上げた先生に、私はゆっくりと頷いて答えた。
合わせられる視線。
先生の表情は読みとれない。
目を逸らせないまま、私の胸中に渦巻いていたその感情。
先生からはもう離れられない────。
……だって。
『また誘うから』
先生は、そう言ったんだ。
一度だけじゃなかった。
これで終わりじゃない……それはそういう意味で。
よかった。
あのときみたいな思いはしなくて済む──そう、安堵の息を小さく吐く。
確かに今、先生との繋がりは身体だけかもしれない。
まだ、そうかもしれない。
でもそこから始まる関係だってある。
これが終わりじゃないなら。
これから先生ともっとたくさん話をして、先生のことをいっぱい知って、私のことも知ってもらえば、きっと。
そう、きっとここから始められる。
……そんなことを思いながら、私は静かに目を閉じた。
10年振りに先生が与えてくれた甘い余韻に深く、浸りながら────。