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水蜜桃の刻
第15章 その背中


「なんで……?」


唇が震え、それを止めようと思わず噛んだ唇。
たまらず、壁に凭れるようにして両手で自分の顔を覆った。
ひんやりとした感触が私の身体を冷やしていく。
さっきまでの熱をあっという間に奪っていく。

消える。
先生がくれた熱さが、消えていく。
どうしよう、もうそれはもらえないのに。


「先……生っ……」


う……と。
その言葉を口にすれば、さらに感情は乱れた。


「……っ、ふ……うう、っあ……!」


抑えることがもうできない。
声を上げ、私は泣いた。

先生を突然失ったその衝撃は、時間と共に身体が冷えていくにつれ……激しく私を襲い始める。


いや。
……いや────!


「先生……先生……っ……!」


もういないのに。
何度呼んでもここにもう先生はいないのに。


苦しい。
助けて。


先生とふたりだけの秘密だった関係。
10年前の約束を今もまだ守り続けてる私は、いったい誰に向かってそう訴えてるの?


どうしよう。
もうどうしたらいいかわからない。


助けて。
ねえ、助けて。


心の中で叫び続けていた。


お願い。
先生────……!


……どこまでも、そのひとの呼び名を。




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