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水蜜桃の刻
第16章 覚悟
「……いろいろあるから」
それで済まそうとする私に
「まあ……そうかもしれないですけど。
あんまり元気そうに見えないなって最近思ってたらこれなんで」
そう言いながら再び差し出してきた眼鏡。
今度は引っ込められなかった手からそれを受け取ると、本郷くんは不意に椅子から立ち上がって私に背を向けた。
部屋の壁に貼られてあるポスターや会社の通達のようなものを特に興味なさそうな素振りで眺め始める。
少しぼやけている、裸眼の視界。
本郷くんのその背中に、昨日の先生のそれがかぶった。
振り返ってくれなかった先生。
私を拒んだ、その背中……。
「……だから俺に────え!?」
溜め息をつきながら振り向いて何か言い掛けた本郷くんが、驚いた様子で急に私に近づいてきた。
「ちょっ、何泣いてるんですか……」
「え……」
その言葉に、そっと頬に触れる。
濡れた感触がして、あ……とそのまま手でそれを拭った。
戸惑っていた、自分でも。
「ごめ……」
まさか、思い出しただけで泣くなんて。
しかも人前で。