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水蜜桃の刻
第16章 覚悟
え? と戸惑いながら彼を見ると、彼は真面目な表情をして私を見返してきた。
その真っ直ぐな視線に、私は何だか息苦しさを覚える。
目を少し逸らし、膝の上の両手を意味なく見つめた。
「……疲れた顔してますね」
指摘されたのは、自覚のあったそれ。
誤魔化すように曖昧に小さく笑い、その視線から隠すように額や頬に手で触れ俯けば
「……あ」
深く開いている、自分の胸元。
慌てて隠すと、俺じゃないですから、そう本郷くんが呟いた。
「坂本さんが、少し緩めた方がいいかもって言って……そうしてたんですよ」
「……そう」
私は、ボタンを留め直した。
胸元についているいくつもの痕──見られてしまっただろうか。
「……何があったんですか」
「え……」
「そんな顔した鈴木さん初めて見たから」
本郷くんの方に視線をやれば、ちら、と合わせられる。
「うまくいってたんじゃなかったんですか?」
私は彼には何も言っていない。
そもそもそういう話は、彼の告白をはっきり断ったあのときからまったくなかった。
だからそれを聞いてくる彼の意図がわからず、ただ黙ってボタンを上まで留めていく。
「付き合ってるんですよね?」
顔を上げれば、彼の視線が私の顔だけではなく、一瞬胸元にもいき、すぐに逸らすようにする。
……やはり、見られてしまっていたらしい。