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水蜜桃の刻
第16章 覚悟


「……ね、鈴木さん。
ほんとにもう俺にしといたら?」


そして、にっ、と……あの人懐っこい笑顔が久し振りに私に向けられた。


「え……」

「俺なら鈴木さんにそんな顔させないよ?」


そして、伸ばされたきた手。
私の手に触れたそれは、そのまま包み込むようにしてくる。


「昔の気持ち引きずってるような関係もうやめて、俺と新しく始めません?」

「本郷くん……」


まさかまだ、私のこと────?


「……もう私のことは何とも思ってないんじゃなかったの?」


は? と、彼は困った顔をした。


「誰がそんなこと言ったんですか」

「……なんとなく、普段の様子で」

「一応自制してたんですって。
鈴木さんがあの人とうまくいってるならほんとに諦めようとは思ってましたけどね……なんかそうじゃなさそうだし?」


本郷くんの優しさが心に染みる。
この優しさに縋ることができたら、苦しかったり悲しかったり……そんなふうに感情が揺さぶられてばかりの心は穏やかになるんだろうか。

たぶん、そうだろう。
ストレートなわかりやすい本郷くんの想いは、私を不安にさせたりすることはないだろう。

──そう、もし縋れたなら。


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