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水蜜桃の刻
第16章 覚悟

「……ごめん、本郷くん」
そんなことできないのは自分が一番よくわかっていた。
だから私の答えはやっぱり同じそれで、少し驚いたように彼の瞳が開かれる。
「ごめんね」
その目を見つめながら、触れられていた手をそっと引いた。
彼の手はついてこない。
はたから見たらばかだと思われるかもしれない。
10人中9人は、先生より本郷くんを選ぶかもしれない。
それでも私はその中のひとりには入らないのだと……そう感じる。
『10年振りの再会に何となく気持ちが盛り上がっただけ』じゃない。
確かに盛り上がったことは否めないけれど、それ『だけ』じゃないのはわかる。
先生を求める私の気持ちには、憧れ以上のものがあったと間違いなく言える。
あんなにそのすべてを欲しいと思ったひとは他にいないから。
それは昔も、今も変わらない。
たとえ思いこみだと言われても、関係ない。
私は私の中のその気持ちを信じたい。
先生を好きな気持ちは間違いなく私のなかにあるのだと。
今、私がこんなに苦しいのは先生が好きだから。
こんなにつらいのは、先生を求める気持ちが満たされていないから。
そんなふうにすべての感情は、好きだから──それでもう説明がつくぐらい、私は、先生を。
考えてみたら、私たちはまだ始まってすらいなかった。
私の中の想いすら、ちゃんと先生に伝えられていないのだから。
言うなれば、身体の関係が終わっただけ。
だからまだ完全に望みが絶たれたわけじゃない────。

