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水蜜桃の刻
第16章 覚悟


「鈴木さんは今日は休んでいいって言われてますから。
このまま真っ直ぐ家に帰ってくださいね」


その言葉に、職場への連絡も何もかもしてくれていたことをあらためて感謝する。
ありがとう、と頭を下げた。


「や、いいですそんな」

「ううん……いろいろごめんね」

「何言ってんですか。
また途中で具合悪くなると大変だからタクシー止めますよ」


そう言って彼は道路脇に進み、それまでしようとしてくれる。


「本郷くん、あとは自分でするから大丈夫だよ」

「だめです。俺、怒られます。
坂本さんに、頼むね、って言われてるんで」


振り向いて言い、また前を向く。
眼鏡越しに見る、その彼の後ろ姿。

さっきのようにこみ上げてくるものは今はもうなかった。
 

本郷くんと交わしたいくつもの言葉。
何を言われても揺るがなかったのは、私の中の先生への想い。

先生と、ちゃんと。
やっぱりちゃんと話したい──そう思った。


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