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水蜜桃の刻
第16章 覚悟


はあっ、と本郷くんが溜め息をついた。


「後悔しても知りませんよ」

「……うん」

「うん、とか……ほんとにわかってます?
あとから俺がいいとか言ってももう無理ですよ?」

「わかってる」


そのときはその後悔を受け入れる。
だってどうしても今は、無理だから。
私はまだ、先生を諦められないから。


「……っとに頑固ですよね」


あーあ、と言いながら彼も手を引く。


「頑固……」


初めて言われた言葉に、私は変な顔をしてしまっていたのか


「ははっ! すげー不満そうっすね」


本郷くんが笑い出した、そのときだった。
コンコン、とノックする音。
静かにドアが開かれる。

50代ぐらいの女性が顔を出した。


「あ、起きた?」


よかった、と言いながら近寄ってきて


「だいぶ落ち着いたみたいね」


優しい笑顔を向けてくれ、私は慌てて頭を下げた。


「すみません、ご迷惑をおかけして……ありがとうございました」


いいのいいの、と手を振るその女性はとても感じのよい方だった。
身体大事にしないとだめよ、若いと思って無理しないでね、と何度も気遣ってくれた。

また後日きちんとお礼に伺おうと思いながら、本郷くんとその会社を後にする。


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