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水蜜桃の刻
第17章 その心
「……けど、やっぱり駄目だった」
「え……」
「苛ついた感情を押さえられず衝動的にあんな無理矢理抱くとか。しかも10年前のことまで持ち出して拒めないようにさせてなんて……っとに、ガキは俺だよ。人のこと言えないよな」
は、と自嘲気味な笑みを漏らしながら
「だからやっぱり駄目だって思った。
透子ちゃんと俺は違いすぎる。
……こんな俺じゃ、ただ傷つけてぼろぼろにするだけだって」
呟くように口にする。
そしてようやく、掴んでいた私の手首を先生は解放した。
そのままほんの少しだけ後ずさるようにして、私から距離を置く。
溜め息と共に目を閉じ、かきあげた前髪。
……指の隙間から、さらりと落ちる。
開かれたときにはその目はもう静かで。
私を見つめてくるその視線も強くはなかった。
「……なら、どうして?」
壁に背中を預けたままで私は先生に問いかけた。
「どうしてずっと身体の関係を続けたの」
そのときから数か月。
ただ、抱いて、抱かれるだけの時間。
心が揺れて、悲鳴を上げ続けていた時間。
抱かれているときは何もかも忘れられるのに、終わったあとに感じる寂しさややるせなさにどうしようもなく苦しくなっていた、あの時間。
「……俺を嫌いになればいいと思ったから」
やがて、先生は静かにそう口にした。
「透子ちゃんがセックスだけの関係を望んでないことぐらいわかってたから。
だからわざとそれだけを続けた。
俺に失望して、もう俺から離れればいいと思った──そういうことだよ」
その言葉の意味────。