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水蜜桃の刻
第19章 その言葉


「……そんなのいいよ、先生……。
私、先生が私と始めてくれるってだけで……もうそれだけで……」


だからそんな心配なんかしなくたって。
そんなの、いいよ先生────。


先生から、ぎゅっと強く抱きしめられた身体。
その匂いに包まれ、満たされる感覚。
たまらなくなり、私も抱きしめ返す。


「……好きだよ、透子が」


そして耳元で静かに口にされた、ずっとずっと欲しくて、焦がれていたその言葉────。


とうとう私の涙腺が崩壊した。
う……とこみ上げてきた感情のままに、そのまま先生の身体に回した腕に力を込める。


「……っ、せんせ……っ……!」


私の背中に回された先生の手が、宥めるように優しく撫でてくる。


透子、今までごめん、と。
本当にごめん、と。


私はもう……嬉しすぎて。
先生……とその呼び名を口にすることしかできない。
もうそれ以外何も口にできない。


先生……先生────。


そのたびに、うん、とか。なに? とか……そんなふうに相槌を打ってくれる、私の大好きなひと。


ああ……私が今まで悩んで、苦しんで、何度も泣いてきたことは、きっと意味があった。
すべてこの日のために。
この日の、このときのために、きっと必要なことだった。


……そう、思いながら。
先生のぬくもりを身体に感じていた。
先生の声を耳に感じていた。


先生の心を、心で私は感じていたんだ────。




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