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水蜜桃の刻
第21章 epilogue


「忍先生」


私の言葉を黙って聞いている愛するひとの名前を口にする。


「私ね、今……すごく幸せ」


そう、素直に伝えれば、もっと幸せな気分になった気がして……私はまた、ふふっと笑う。


そんな、先生と私の刻────。
これからも続いていくであろうその甘やかな時間を心の中にしっかりと刻みながら、先生を……自分を、大切にしていこうとあらためて思う。


「……俺だって」


やがて、先生が静かに口を開いた。


「いつも思い出してるよ」


そう、続ける。


「……何を?」


それは、どんなこと?
何の記憶?


「何を、とかじゃなくてさ」


苦笑しながらのその返事に、ん? と目で問いかける。
だからそういうんじゃなくて──繰り返したその言葉の直後。


「……透子のことを、だよ」


先生は、そう続けて。

想像していなかった答えに思わず言葉を詰まらせてしまった私を見ながら、この季節に限らずね、と呟き、また少しだけ笑った。




          fin.



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