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水蜜桃の刻
第21章 epilogue
「……先生も、思い出したりする?」
フォークで桃を刺しながら、ふふ、と口元に無意識のうちに浮かぶ笑み。
はい、と先生の口元に運べば、それを受け止める唇。
「あのときは、こんな日が来るなんてまさか思わなかった」
そう……その、苦しかった想い。
それに呑み込まれるたびに私は泣いていた気がする。
先生を求めたい。
でも求めることは許されない。
そんなのわかっているのに、でもわかりたくなんかないという気持ち。
いつも、相反する気持ちの狭間で私の心は揺れていた。
やがて本当に会えなくなって。
月日も流れていった。
でも、新しい恋を始めてみても、いつも心の中に先生への想いは消えずにあって。
「……1年前も、思ってなかった」
そんな中、先生と再会して。
でも、その関係は思ってもいなかった方向にねじれていって──苦しくて、何度も泣いた。
「だから、こうやって今、先生と暮らしてるのが本当に不思議」
そんな、私の中の記憶たち。
けれど今はもうそのときとは違う。
思い出してももう、苦しさは伴わない。
だってそれは過去じゃないから。
私たちのはじまりの記憶に……想いが通じるまでの記憶というかたちに変わっているから。