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水蜜桃の刻
第5章 その笑顔


身体を揺さぶられる感覚に、意識が次第にはっきりしてくる。
やがて視界に映った先生の姿はすでに身支度を整えていた。


……夢……?


ぼんやりと、そんなことを考える。


「……12時、過ぎてる」


けれどもかけられたその言葉に、はっと我に返った。
ん……と、ゆっくり身体を起こす。
全身を包む甘い疲労感が、夢じゃなかったと教えてくれている。


「……先生……」


思わず言葉を零すと、私にちらりと視線を寄越すそのひと。


「……身体、大丈夫?」


手渡された着替え。
私は頷いてそれを受け取った。


「拭くよ」


いつのまに準備していたのか、タオルを手に先生がベッドに上がってくる。
背中側に回ると同時にひんやりと濡れた感触を肌に感じた。
拭われていく身体。


「ん……」


先生が、左手で私の肩を押さえてる。
触れられているというただそれだけのことが、私の心をまた甘く疼かせる。


……だめ。


唇を噛んだ。
だってもう、先生とは────。


「……あとは自分で、やる」


背中を拭いてもらったあと、そう伝えた。
黙ってタオルを私によこし、ベッドからおりた先生は、私から目を逸らしたまま机の前に立ち、大きく、深い息を吐く。


いつも見ている先生とは違う姿を、いっぱい見た。
知らなかった先生を、いっぱい知った。

同じように、先生も見たはずだった。
いつもの私とは違う、その姿を。


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