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水蜜桃の刻
第5章 その笑顔
……そうして。
会うたびに減っていく、残りの時間。
先生と過ごせる、その時間。
時なんて止まらない。
どんなに願っても止まるわけがない。
だからその日はやっぱりやってきた。
私たちはいつもと同じように、いい先生といい生徒のままで、最後の時間を過ごす。
……けれど。
終わる、少し前のことだった。
先生が不意にテキストを閉じる。
「先生?」
思わず尋ねた私に先生は言った。
「……約束、ちゃんと守れたね」
え……?
「ご褒美、何がいい?」
感情があまり読みとれないその表情。
それでも微かに口角は上げられていて、眼鏡の奥の目は優しく見える。
「……そんなの、くれるんだ」
そう呟くと、俺でできることならね、と小さく返された。
どうしよう────。
途端に、胸が騒ぎ出す。
何を言えばいいの?
何を願ってもいいの?
「……何でも、いいの?」
思わず、問いかけた。