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水蜜桃の刻
第5章 その笑顔
それからも、先生はいつものようにうちに来て、私もいつものように先生に教わる。
口にしない。
ふたりともあのときのことは。
いつものように私は笑う。
先生も、いつもの笑い方をする。
片側の口角だけを上げる、あの笑い方はもう見られない。
胸元と、内ももにたくさんつけられたはずのキスマーク。
……それももう、時間と共に消えてしまって。
時々、あれはやっぱり夢だったんじゃないかと──そう思ってしまうほど、私と先生はその秘密をひたすらに胸に秘め、いい先生と、いい生徒で……そんなふうに、ずっと過ごした。
けれど私は、いつも思い出す。
先生と会った日。
夜はいつも、自分の身体を自分で慰めていた。
忘れないように、何度も頭の中で反芻する。
先生のキスを。
先生の指を。
先生の唇を。
その、言葉を。
その、交わりを。
先生に欲情して、欲情されたあの時間。
……それは、私の中の忘れられない甘い記憶。
後悔はしてない。
でも……どんなにあの時間を思い出して身体を慰めても、到底辿りつけない、あのときの強烈な快感。
忘れたくないのに、本当に忘れられなかったらどうしよう──そんなふうに少しだけ、こわくなった。