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水蜜桃の刻
第6章 予感
……そして、10年が経っていた。
先生にはあれから一度も会っていない。
先生が、私の先生ではなくなったあの日の夜。
先生に抱かれたあのベッドに突っ伏すようにして、私はひたすら泣いた。
私の恋は、叶わなかった。
叶うなんて最初から思ってはいなかったけど、やっぱりしばらくは、苦しく、哀しかった。
時が経つにつれ、少しずつ……その感情に慣れていっても。
あのときのその鮮明さが少しずつ薄れていっても。
それでも──朧気に形を変えながらも、忘れられない甘い記憶としていつまでも、それは私の中に残り続けている。
時折、わざと思い出しては沸き上がる感情に身を委ね、あのときのいろいろと必死だった自分に苦笑いしながらも、胸をきゅ……と疼かせていた。
そんな甘い想いが残るあの部屋……あの家には、私はもう住んでいなかった。
私は、というより、私たち家族は、と言った方が正しい。
私が大学の寮に入っていたとき、父方のおばあちゃんが亡くなり、一人暮らしになったおじいちゃんを心配した両親が、貸家だったその家からおじいちゃんの住む家に移り住んだからだ。
大学を出たあと、私もその家で暮らし始め、もう4年になる。