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水蜜桃の刻
第8章 熱感


再び目覚めさせられた、この熱。
前も、今も、それは先生の存在で。


洗い物を終えた私はリビングに戻り、テーブルの上の名刺を手に取った。
裏には先生の携帯の番号。


『連絡、待ってる』


先生のその言葉。
……私の番号は聞かれなかった。

すでにもう、私の心は先生の言動のひとつひとつに揺らされていた。

私が連絡しなかったら、先生はどうするんだろう。
それならそれで別に構わない?
だから、私の番号は聞かなかったの?
先生からは、私に連絡する気がないから?


「……違う。
だって先生、私がここに住んでるのわかったから、だから」


だから、連絡取りたいときはここに直接来ればいいって思ったのかも────。


そんな、都合のいい考えを思いつき、すぐに苦笑する。


「……ばかみたい」


そんな面倒なことするんだったら、最初から聞くはず。
私が連絡してくるって、先生はきっとわかってるんだ。
だから、あえて、そうしなかったんだ。


はあ……と深く息を吐く。


どうしよう。
踏み込んだら、きっともう戻れない。
私はどんどん先生にのめり込んでしまう。
惹かれてしまう。
あのときのように。


ずきずきする。
指先から全身に広がっていった痛み。


胸を押さえ、手にしたその名刺の番号を見つめた。


諦めていたはずの想いは、消えることなく心の奥に今もあったことがわかってしまった今。


……どうしよう。
 
 
そんなふうに思いながらもきっと。
そう、きっと私は───……。



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