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水蜜桃の刻
第8章 熱感


その関係が終わったのは彼の転勤が決まったとき。
その勤務地はかなり遠かったから、結婚して一緒についてきてほしいと言われたけれど、24歳の私には結婚なんてまだ正直考えられなかった。

断ったとき、彼は私のそんな気持ちを心のどこかではわかっていたようだった。
どこか冷めている──前の彼に言われたそのことを、彼も思っていたのかもしれない。

今度会ったときお互いフリーだったらまた付き合おう、なんて言葉を彼は残し、私たちは別れた。


それから2年のあいだ、恋愛からは離れていたけれど。

会う約束をしていた、2歳年下の同僚の彼。
前からよく話しかけてきていたその後輩は最近特に積極的で、同期の友達からも「あの子、絶対透子狙ってるよね」と言われるぐらい、ストレートにその好意を示してくる。

最初は誘いを断っていた。
けれど、何度断っても懲りずに誘ってくる彼に、私の中の何かがほだされてしまったかのように……その好意を心地よくさえ思えていた最近だった。

初めて、彼の誘いを受け入れて
そして迎えた今日なのに────。


大きく息を吐き、身体に力を入れて立ち上がった。
テーブルのカップをキッチンに下げ、そのまま洗い物をする。

……傷に、泡がしみた。
ずきずきするそれは、罪悪感に似た感覚。


先生との再会でもう何も考えられなくなった自分。
冷静でなどいられなかった。
こんな自分が私の中にいたなんて。


そう思い、でもすぐにそれを打ち消した。


……ううん、確かにいた。
10年前の私が、そうだった。


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