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呪いのしるしを、君の体に。
第3章 3
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「やあ、よく来てくれたね。遠かったでしょ?」
授業が終わって、電車に揺られること1時間。
さすが、高原リゾートだけあって、駅についた瞬間、涼しい風が吹き抜けた。
改札を出てキョロキョロしていると
高槻忍が手を振って歩いて来た。
『わ、改めて見ると緊張する…』
と思ったのだが、諭吉のことを思い出すと、ことりは急に冷静になった。
「大丈夫です。それよりも、お時間頂いてしまい、申し訳ありません」
「いいのいいの。こんなところで立ち話も粋じゃないし、僕の別荘においで」
それは困る、と断ろうとしたのだが、ひょいと手を持たれてしまい
ことりは彼の乗って来た車に、半ば強引に乗せられてしまった。
「急に会いたいって書いてあるから、何事かとかと思ったよ。
もしかして、あの後何か困ったことでも起こったの?」
高槻忍は、滑らかに自動車を発進させると、柔和な口調でことりに問いかけた。
その仕草ひとつひとつが色っぽく、そして、ジェントルマンだということがすぐにわかる。
少し癖のある黒髪に、整った横顔。
シャツとパンツというラフな格好でありながらも、どこか品が良かった。
三十路に入ったばかりだが、見た目は若く
大人の余裕と、子どもの好奇心と半分ずつ合わさったような印象だった。
「いえ…。何もありませんでした。
着いてから、詳しくお話しします」
ことりは前を見つめながら、頭の中ではこの人があの過激で繊細な文章を書く姿が、どうしても想像できないでいた。
車で5分も経たないうちに、森林を抜けてひとつのコテージが現れる。
「はい、到着。
ここが、僕の別荘兼、夏の間の仕事場で書斎。
都会は暑くていられないから」
寮暮らしのことりからは、それはとんでもない豪邸に見えた。
「すごい…」
思わず漏れた言葉を封じようと慌てて手で口を押さえたのだが
高槻に聞かれてしまい、ニコニコと微笑まれてしまった。