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呪いのしるしを、君の体に。
第3章 3
「どうぞ、座ってくつろいで」
通されたリビングは、シンプルでオシャレだった。
ほぼ、何もないに近い。
生活感があまり見えず、本当にここに住んでいるのか不安になるほどだった。
「紅茶とコーヒーどっちがお好き?
ここの高原ブランドのだから美味しいよ」
「あ、じゃあコーヒーを下さい」
高槻は慣れた手つきでコーヒーをおとし始めた。
あたりにはコーヒーのいい香りが広がり、木立の間から漏れる木漏れ日に、野鳥の澄んだ声が美しかった。
「はい。お砂糖とミルクは?」
「いらないです。ありがとうございます」
そう言って出されたコーヒーは、なんともいえず美味しい。
「…おいしい」
「そう、美味しかったなら良かった。
でも珍しいね。学生さんだと、甘いのが好きなんじゃないの?」
ことりはそうだけど、と心の中で呟いた。
オシャレなカフェで甘いコーヒーだって飲みたい。
だけど、それ一杯を飲むのに、何百円も払うのが惜しかった。
勉強中は眠くなってしまうのでコーヒーは欠かせないのだが
砂糖やミルクをケチって飲むうちに
いつの間にかブラックコーヒーが当たり前になっていた。
「好きですけど…私にとっては贅沢なものです」
「贅沢?」
「はい」
高槻は面白いものを見る目で、ことりを見つめた。
その瞳は、ほんの少し緑がかったような茶色をしていて
この高原の木漏れ日のような瞳だった。
「うちは、親がリストラされて、今、とてつもなく貧乏なんです」
「そうだったんだ」
高槻はコーヒーをすすりながら、お茶菓子のクッキーを差し出す。
ことりはちょっと面食らいながらも、出されたクッキーを頬張った。