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呪いのしるしを、君の体に。
第5章 5
それから3日経つ。
ことりの物覚えはよく、マニュアル通り完璧に仕事をこなした。
もともと賢く、国立大学にも難なく入れるほどの頭だったのが幸いした。
マニュアルには割と細かいことも書いてあるのだが
それはことりにとって、大した内容ではなかった。
分かったことは、かなり生活サイクルが整っていて
オンオフの切り替えがうまい人間だということだった。
ことりは朝早く起きて家の掃除を始める。
朝は高原の澄んだ空気が気持ちよく
家じゅうの掃除を済ませると、まるで心が洗われるようだった。
そんなこんなで1日が終わり、夕飯の支度を終えて
ことりはキッチン側のバルコニーでほっと一息ついた。
『先生、あれから何もしてこない』
おかげでことりは平穏に生活することができた。
やることをきちんとこなせばよいだけで
夜や朝はゆっくりと自分の時間ももてる。
特に夜に、部屋のバルコニーから、星空を眺めるのも好きで
昼間は書斎にこもりがちな高槻と会うことはほぼなかった。
「これで100万円って、私相当得かも…」
「そうだよ、ずいぶんとラッキーだ」
「わ、先生!」
「先に言っておくけど、ちゃんと声はかけたよ?」
ことりは慌てたせいで、お茶のカップを滑らせて
盛大に自分の太ももに零した。
「大丈夫?」
「や、来ないでください!」
更に慌てたせいで、カップが滑り落ちて
地面で割れてしまった。
『しまった、大失態…!』
高槻を見ると、何ともない顔をしていた。
「あの…ごめんなさい。弁償します」
「いいけど、そのカップはバカラだから3万円くらいだよ?」
「え、3万!?」
ことりの血の気が引いた。
もはや、片づけることさえ手が動かない。
高槻が近寄ってガラスを手に取った。