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秘愛  
第4章 理由
約束した金曜日。

仕事は普段と変わらず、2時間ほどの残業をし、
7時半には紙コップのコーヒーを手に喫煙室にいた。

遙香の返事は聞かなかったけど、彼女は必ず来る。
確信しながらコーヒーをすすり、大都会の瞬きを眺めつづけた。



どのくらい時間が経っただろうかと時計に目をやると8時半。
コーヒーはとうに空になり、もう一杯飲もうか、と一歩を踏み出した時
ガラスの向こうに遙香の姿が見えた。

遙香のほうも孝明に気がつくと、はにかんだ笑顔を見せた。

「おまたせ。
 1時間も待たせちゃったわね、ごめんなさい」

そのセリフに孝明は首をかしげた。
どうして1時間待っている、ってわかったんだろう・・?

「遅くなりそうだって、言いに行こうとしたらちょうど
 篠宮くんがここに入っていくのが見えたのよ」

中には入ってこず、入り口に立ったままの遙香は
早くも足が、気持ちが、外にむいているようだった。

鞄を手にした孝明がドアまで来る前に、
遙香はエレベーターへ向かって歩き出していた。

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