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秘愛  
第4章 理由
混雑した地下鉄の中で、ほとんど孝明の胸に張り付くような形で
遙香は吊革につかまった。

けっこう揺れる銀座線は、時々嬉しい意地悪をする。
ガタンと揺れるたびに遙香の体は孝明にぶつかる。
そのたびにゴメン、とつぶやいているようだが、声は聞えない。
そんな遙香がやけにしおらしく見えて、守ってやりたくなって、
孝明はそっと彼女の背中を、鞄を持ったままその手で支えた。
ハッと顔をあげた女の顔が、素直さを物語っていた。

銀座までの二駅を、そのまま孝明に支えてもらうことを拒まなかった。


金曜の夜とあってその人の多さといったらわずらわしいほどだった。

「今夜はどこも混んでるでしょうね・・
 何が食べたいですか?」

その質問に遙香は、静かに話せるとこ、とだけ答えた。

「じゃあ・・ファミ飲みでもしますか!」

「え?ファミ飲み?って?」

「文字通り、ファミレスで飲むってことですよ。今けっこう流行ってんですよ。
 銀座にもなんとファミレスができたし。
 隅っこのボックス席に座ればゆっくり話できますよ」

孝明は遙香の手を引いて歩き出す。
女の手首を掴んでいた男の手は、徐々に位置をずらしていき、
信号待ちの時にはしっかりと手のひらを握っていた。
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