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秘愛  
第4章 理由
さらに顔を近づけ・・
遙香の唇に一瞬だけ、唇を重ねた。

ぷっくりとした唇は、程よい弾力があった。
その唇を半分開けたまま、息も止めたまま、孝明の顔を見続けている。
なにか声を出そうとしているようにも見えるが、
きっと言葉が、いや声さえ出てこないのかもしれない。
それほど驚いているようだった。

「美人のヤリ手女史のそんな顔見られるなんて、
 あの会社の中探してもオレくらいでしょうね。今の奥村さんの顔、素直でいいよ」

年下男の余裕の発言に、やっと反応できた。
拗ねた眼で見上げてからうつむいた。
だが言葉はまだ、出てこない。

「いいよ、なんも言わなくても。
 さぁ、帰りましょうか。日比谷線でしたよね?改札まで送ります」

遙香の肩をそっと抱いて、歩き出す。

時折吹く弱い風に、銀座の柳がゆらゆらとなびく。
そのゆったりとした動きを眺めながら、孝明は思う。

・・・こんなにのんびりはしないぞ、今度は・・・
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