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よくある恋愛モノ
第8章 伝わらない気持ち
「どう、初めての食堂は」
授業初日の昼休み、美和は星来と2人で食堂に来ていた
久々に食堂の定食が食べられるというだけあって、大盛況だ
それでも何とか丸テーブルを確保して座った2人
そしてそのテーブルに断りもなく座る男が1人−−−
「え、なに?」
当然のようにそこにいる凪に美和は戸惑った
あの日から、意識的に避けてきた相手だ
次に目が合ったら今度こそ囚われる−−−
「あ、一緒に食べてくれる人いないんだー」
凪は事件以来寅のことを無視していた
「うっせーよ」
もともと向こうが勝手に付きまとっていただけだ、と凪は返す
星来は黙々と食事を続けている
「あ、私…えっと、あの……」
凪への得体の知れない恐怖感と、星来への配慮から、美和はどうにかその場を離れようとした
「ごちそうさま」
そう言って箸を置いたのは、美和ではなく星来だった
「私先生に質問することがあるの。先に行くね」
「え、星来……?」
“この状況で2人にしないでよ!”
泣き出したい気分だ
「そんなにあいつのことが気になるのか?」
凪の言葉に、美和はさっと顔を上げた
その瞬間、凪と目が合ってしまう
一瞬怯えた美和だが、凪の瞳にあの日の光はない
そのことが、安堵よりも何故か美和を動揺させた
「き、気になるっていうか……もう、凪って鈍感だね!」
美和はそう言うと、まだ残っている食器を持って席を立ってしまった
「鈍感なのはそっちの方だろ」
凪が小さく呟いた言葉は、もう遠くなった美和に届かない
美和が去った後、凪の瞳にはあの日の光が宿っていた−−−