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rena's world story★a.n.r.r.y
第7章 祝福の日
……今年還暦を迎えても、引退の気配すら無い現役の女医。
毎回白衣のまま帰ってきて、家の中でも大股で歩く母親だけど
今日ばかりは格の高い礼装によって、幾分か大人しく見える。
「……名詞渡しても意味無いから。
あの人達には皆、立派な主治医がくっついてるんだよ」
そう言いながら溜息をついて、2着目のタキシードのボタンを外すと
分かってるわよと笑いながら、向かい側のソファに母親が座った。
「疲れたわ。
挙式から披露宴まで……全部で何時間やってたのかしら」
「……さぁ。
中盤から、司会が必死に巻いてるのには気付いたけど」
「あら、もう間もなく7時になるわよ」
控室の窓から間近に見える東京タワー。
既に陽が落ちた夜空に、オレンジ色の眩い輝きが放たれている。
「それにしても蓮。
あんたの謝辞、普通というか地味だったわね」
ネクタイを緩める俺の前で、今度は母親が溜息をついた。
「……地味?」
「捻りも面白みも無かったじゃないの。
悠梨くんのお話なんて最高に素敵だったのに」
「………!」
「なんだか肩の凝る披露宴だったから。
私、彼のスピーチタイムが1番リラックスできたわ」