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あるマンションでの出来事
第3章 動き出す
「それは俺にも分からない。だって、この事実に自分で気付かなきゃ、本人は日常を過ごしているつもりだから」

「……え…」

「彼が出張と言っていたのなら、彼は自分自身でも出張に行っているはずだ。このマンションに彼はいないだろう。けど、何かの違和感に気付いた時に、彼は今の茉莉のように気付くはずだよ」

「…そんな…」

「こうやって自分で知っていかなければ、このマンションでは生き残れないよ」

「………」

「茉莉、マンションの部屋を巡ってみたらいい。自分で見て、感じて、察することが大事だから、俺は着いていけないよ」

「………」



佐伯は茉莉の事後処理を終え、下着を履かせて服を整えると、すぐに部屋から追い出すように外へ出した。
予想もしていなかった冷たい反応に、まだ完全に力が入らない体を動かし茉莉はボーっと佐伯の部屋の玄関扉を見ていた。
フラフラと歩き、たどり着いたのは501号室。
ここはきっと、誰かが住んでいた場所。そして、今は誰もいない部屋。
今思えば、あれもまた現実に起こったことだったのかもしれない。
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