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あるマンションでの出来事
第4章 6階と7階
それからどのくらいの時間が経ったのかは分からない。
気付けば男は力なく横たわり、小さく上下する胸に、かろうじて生きていることが分かる状態だった。


佐伯は、ゆっくりと立ち上がり、茉莉の元へ近づく。恐怖が近づくことに震えが止まらない茉莉の唇は、言葉を発することも出来ず、ただそこで全身に力を込め、小さな抵抗を示した。



「茉莉…」

「………」

「ごめん、クローゼットの中とか部屋の扉とかに気を取られて、途中茉莉がいないことに気付かなかった。大丈夫…?」



血にまみれた手を伸ばし、茉莉の頬へ持っていく。その瞬間に茉莉は肩を竦め、佐伯の手を拒否した。
目を固く閉じ、決して目を合わせようとしない茉莉に、佐伯は、自身の手を見ると、再び立ち上がり脱衣所にある洗面台で手を洗った。
横に力なく倒れている男を気にすることなく、佐伯は大雑把に水を払いのけると、茉莉の元へ戻ってきた。



「茉莉…自分の部屋に戻って風呂に入ったほうがいいよ」

「………え…」



予想していなかった言葉に、茉莉は思わず反応を示し、自身の姿を改めて自覚した。
中途半端に脱がされた服から零れ落ちた柔らかな胸、そして、男の体液で汚れた茉莉の下半身。思わず茉莉は両手で自分を抱き締めるように縮こまり、衝撃な出来事に涙を流した。

その涙を、佐伯は優しく拭き取り、茉莉を立たせると簡単に服を整えさせ玄関へ向かわせた。
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