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星と僕たちのあいだに
第1章 雨、出逢い
第一章 雨、出逢い
秋雨にぐずついた昨日までとうってかわり、朝間の青空に白い太陽が貼りついた。
季節があける扉をまちがえたような好天に、ハンドルを握る白石圭司は機嫌がいい。
倉庫街を抜け、上々の気分で運河沿いの産業道路を走り、港湾地区と対岸の港町とにかかる急勾配の鉄橋で思い切りアクセルを踏みこんだ。
圭司が仕事にありついたのは十日ぶりだった。
カメラマンとしてプロを名乗るようになったとはいえ、独立して間なしの白石圭司に業界での実績と呼べるような道具立てはない。
あるのは中古でそろえた多くの撮影機材と、盛大に煙を吐くわりにからきし走らぬポンコツワゴン。
それと、アシスタント時代に無理して買ったニコンのフルサイズ機ぐらいのものである。
零細出版社や広告制作会社、ホテル、学校、結婚式場へ拝んでまわり、最近ようやくわずかのギャラを手にできるようになったが、仕事の依頼は飛び石で、カレンダーは無地のます目が威張っている。
耐乏生活のやりくりに追われる日々である。
だが、圭司にはそれがどこか他人事の気配が強く、落魄(らくはく)した様子を彼にみることはない。
むろんカネに困るのは愉快なことではないが、あらゆる職種において本当のプロと呼ばれる者は、みずからの職業に誇りを持ち、とにかくいい仕事をするために情熱を燃やし、カネのことはそっちのけで出来ばえにこだわる。
プロを自称する圭司もその例にもれない。
ただ、今のところトラックターミナルの荷役仕事が収入の大半で、それでどうにか日々を食いつなぐ状況ではあるが。