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星と僕たちのあいだに
第1章 雨、出逢い
圭司が撮るのは大学病院の敷地内に新築された介護ホームで、写真はホームの入居募集パンフレットに使用される。
なじみのデザイン事務所から依頼された貴重な仕事である。
現地に到着した圭司は、立体駐車場の屋上にワゴンをとめて発注元の担当者を待った。
ワゴンの後部ハッチをあけ放して荷台に腰をおろし、陽射しに手をかざす。
初冬とは思えない温かみをはらんだ陽光が、介護ホームのまあたらしい外壁に反射している。
絶好の撮影日和になった。
『これなら、きれいに撮れそうだ』
機材の準備をしながら眼を向けた先に、若い女性が列をなして次々とこちらの建物に向かってくるのが見えた。
となりの建物はこの病院の看護師寮のようだった。
愛機に望遠レンズを装着した圭司は、ファインダーをのぞき、フェンスごしに看護師寮の門をズームしてピタリとピントを合わせた。
シャッターは切らない。
あくびをしながら出てくる者や、同僚とのおしゃべりに夢中になってポーチの段をふみはずす者、あたたかい朝に起床時間をだまされたらしい、眉もかいていない大慌てのすっぴん娘もいる。
『寝坊したか。
みんなかわいいねぇ』
圭司がもっとも得意とする被写体は人物であった。
「人の個性と主張を視覚可能なメッセージにする」
それが圭司の思う写真家の役目であり、彼がつらぬく写真哲学でもあった。
夢中でファインダーをのぞいていた圭司の耳元で、突然『わっ!』と大きな声がした。
圭司は驚いて飛びあがった。
待ちあわせに遅れてきた、発注元の担当者が腹をかかえて笑っている。
『白石君、ノゾキは捕まるぞ』
パスケースに入った入場許可証を差し出す担当者は、なおも猥雑(わいざつ)な笑みをしたたらせた。
『や、遅れてすまん。
しかし、望遠レンズでノゾキとは、
君もやっぱり好きなんだなぁ』
レンズをかたづけながら、圭司は、
『そりゃ男ですからね』
と愛想笑いでこたえ、パスケースを受けとって機材をかついだ。