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星と僕たちのあいだに
第8章 セレンディピティー
人の気持ちは変わる。
いけないことのようにとられがちだが、気持ちが変わることで苦痛から逃げだせることもあれば、前を向けることもある。
どこか別の場所、いつかの未来へ。
人の希望は、大きなあきらめから生まれてくるのかもしれない。
あきらめを認められないのは、もしかするととても不幸なことなのかもしれない、と圭司は渡瀬を見ていて思った。
『絵に書いたようには、
いかないってことだよな』
そう言って渡瀬はジョッキを空けて、店員に掲げた。
気づいた店員に満面の笑みでお代わりを告げると、圭司に向きなおり、表情を戻して話を続けた。
『麻衣ちゃんが倉庫に来た夜に、
圭ちゃん言ってたもんな。
人の気持ちはそんなもんじゃないって。
ホントは俺、いつまでも待てるんだ。
でもさ、俺が待つってことが、
早苗を苦しめてんじゃないかってね。
そう思えてきてさ……。
アイツはどうしても、
俺に気持ちを向けられないんだよ。
たぶん俺は、
答えに困る返事を強要してたんだ。
アイツの悩みの種を増やしただけだって、
そんな気がしてるんだ』
への字に曲げた唇を突き出して、渡瀬はうんうんとうなずいた。
渡瀬も渡瀬なりのさまざまな想いをたずさえて早苗との距離をながめ、それがこれ以上、詰まるものではないと判断したのだろう。
ただ圭司にはそれが、渡瀬の純粋な思いやりと理性だけに頼った答えの出し方のように思えた。
実行動をともなわない空論であり、思弁(しべん)にすぎないのではないかという気がしたのである。
自分をたじろがせた麻衣の言葉に、圭司はあらためて感服した。
おそらく早苗は熱烈に愛されたいのだ。
むろん愛してくれるから愛そうかというガサツなものではないが、愛されている実感によって相手への愛情が生まれ、より豊かな愛を返そうとすることもある。