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星と僕たちのあいだに
第8章 セレンディピティー
圭司は、早苗に向かう愛情の存在を自分の中に見つけていた。
早苗を胸に抱いた夜、ふたりはすんでのところで男と女の関係になる道筋を断ち切った。
早苗の想いは決して猥(みだ)りがわしい感情ではなく、清廉潔白な愛情であった。
それに対し、圭司は邪(よこしま)な感情を拭えなかった。
だからこそ彼は成り行きというものにあらがい、欲望に鍵をかけたのである。
そうしたことは二人だけの黙約であり、黙約である以上その存在自体、麻衣や渡瀬に悟らせてはならないことである。
けれども、生の息がかからない一定の距離を保ちながらも、どちらかの息を強くあてればいつ火柱を立ててもおかしくない口火を、圭司がいまだに持ちあわせているのは確かだった。
ただ、決して考えないように自分を仕向け、それに目を向けないよう庇(かば)い立てしてきただけなのだ。
『まぁ、実際のところ、
俺も人のこと言えたもんじゃないんだけどさ』
思い当たることを見つけたというような口ぶりの圭司に、渡瀬は手と顔を小きざみに振り、
『いや、そうじゃない。圭ちゃんは
麻衣ちゃんをしっかり捕まえたんだ。
男として、まじめに尊敬するよ』
と言って笑った。
そして、笑顔のまま、テーブルを照らす裸電球に視線を投じ、
『俺は一度、早苗を抱いた。
でも、しっかりと捕まえられなかったんだ。
それがすべてだよ』
しみじみと言い方だった。
取りつくろったのではなさそうな、やけにさっぱりした渡瀬の笑顔を妙に痛々しく感じ、圭司は急に、渡瀬がかわいそうでたまらなくなった。
渡瀬は言いたいことの半分も言えてないんじゃないか。
そんな気がした。
『ったく、浩ちゃんが女だったら、
抱きしめてるぜ』
圭司が言うと、渡瀬は腕組みして何やら考える素振りを見せた。
『この際、そうしてもらおうかなぁ。
くちびるまでは許すよ』
『バカ、飲みすぎだよ』
二人で笑った。