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星と僕たちのあいだに
第8章 セレンディピティー
《前略
先日は、息子直樹が大変お世話になりました。
その節は、ありがとうございました。
本来ならば、直接お伺いしてお礼申し上げるべきところ、このような突然の便りを差しあげる無礼をお許しください。
あの時、私は息子の行方が知れなくなったことで、不覚にも気が動転しておりました。
良くない事態ばかりが頭をめぐり、公園から出たのではないかと外の大通りを探しておりました。
息子の姿を求めて駆けまわっていた私に、園内放送を聴かれた花見帰りのご婦人が、園内で迷子が保護されているようだと教えて下さいました。
慌てて管理事務所に駆けつけ、あなた様に抱かれた息子の顔を見たときは本当に安堵しました。
職員の方に聞けば、あなた様のもとへ直樹から寄りついたのだとか。
それから私が着くまでの間、ずっとしがみついて離れなかったとうかがいました。
休日の貴重なお時間、直樹のために使わせてしまいましたことを、深くお詫びせねばなりません。まことに申し訳ございませんでした。
人一倍恥ずかしがりやで人見知りをする直樹が、あなた様には心を開いておるようで、あれからもあなた様を思い出しては会いたがり、駄々をこねる日々でございます。
諸々の事情を説いても幼い直樹に解せるわけもなく、ごまかしをない交ぜに無理やり保育園へやっております。
息子は運良く、あなた様のお陰で大事に至らずにすみました。
ひとことお礼を申し上げたくお便りいたしました。
このたびは、ありがとうございました。
草々
滝沢直也、直樹
追伸
あなた様からお名前もお住まいも訊き忘れ、あて先も判らぬまましたためたものでございます。
これから管理事務所に問い合わせるつもりですが、おそらく私があなた様の何をも知ることはできません。
この手紙は管理事務所からの転送となるやもしれません。
どうか不躾な行状をお許しください。》