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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
『あぁ、また。
これ、直樹。来なさい』
直樹をいさめる滝沢を制止するように、麻衣は微笑んで、
『久しぶりだもんね、会えて嬉しいわ』
と、直樹の頭をなでた。
『どうも……すみません』
茫然としたような、ゆるんだようにも見える表情でかしこまる滝沢に、少し異なものを感じながら麻衣が訊いた。
『きょうはお休みですか?』
『はい、有休です。
篠原さんは?』
『私、夜勤明けなんです。
ときどきここに寄って帰るんです』
麻衣が返信した差出人住所を思い出したというように、「あぁ」という口を作ってうなずいたあと、滝沢ははにかむように笑った。
『そういえば、
ご住所このあたりでしたね』
精悍な顔立ちが作るにしては不釣合いに優しくゆるんだ表情の中に、黒目がちの瞳が磨きのかかった黒曜石(こくようせき)のように艶をおびている。
その笑顔で、渡瀬の笑顔を思い出した。
見覚えがあると思ったのはそのせいだった。
『あの……』
滝沢は耳のうらあたりに手をやって、反応をうかがうように麻衣を上目に見て言った。
『時間がよければ、
もう少しお引きとめしてもいいでしょうか?
お弁当も、お茶もあります』
麻衣はまばたきをして、言葉の意味を考えるかのように滝沢を見た。
滝沢の口ぶりや表情に下卑たものはなく、ある種のひたむきさが見てとれる。
すげなく断るのは申し訳ない気がした。
それとは別に、胸元への圧力を失いたくない気持ちもあった。
『あ、ええ、大丈夫です』
多少とまどいの表情を交えて返事した麻衣に、滝沢は気を良くしたように微笑んで、『じゃ行きましょう』と芝生広場へ降りる石組みの階段へ歩んだ。