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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
 
偶然出会った滝沢父子との交流は、麻衣のなかに思いもよらない欲望をかきたてた。
倉庫に戻ってからも心のわななきは鎮まらない。
無分別な欲望に支配され、他のあらゆる感情を寄せつけられぬまま、麻衣は誰もいないリビングによろよろと崩れ落ちた。

――――(私はとんでもないものを手に入れたがっている……)

その思いは、圭司に対しての激しい罪悪感となって麻衣に襲い掛かる。
直樹とのかかわりで麻衣が感得した幸福感は、決して圭司にもたらされることはない。
圭司にも行きわたるはずだった、父親として我が子に愛されるという幸福を、圭司の手前でせきとめているのが自分だと思うと、許しがたい自己への憎しみがわいた。

――――(仕方ないじゃないの!)

手段を持たない人間、道を閉ざされた人間。
自分がそうであることは百も承知していた。
圭司に出会い、それらの不運は、焦点をはるかにした画の中で輪郭をぼかしたはずだった。
それなのに、他者への愛を感じれば感じるほど自分にもたらされた不運を思い知らされる。
愛する者を幸福にできないだけでなく、総じて不幸へと導いてしまう己のいたらなさが、客観的事実によって浮き彫りになっていく。

――――(私に、子供を産むことさえできたら……)

くやしさが涙となって麻衣の眼からあふれた。

『私は、圭司が好きなのにっ!』

発作におそわれたように、麻衣は自分の下腹を思い切り殴った。
鈍痛にうずくまりながら、それでもなお、殴り続けた。

『こんなお腹……いらないよ!』

痛みと悲しみで涙が止まらなかった。
嗚咽は、いつしか慟哭(どうこく)となって倉庫にこだましていた。

やっぱり私じゃダメなんだ。
圭司は充分な幸福を手にすることができる人なのに。
私でなくていい。
もうこのまま、消えてなくなりたい……。

事実への立ち向かいかたが、麻衣には、まったく解らなくなった。




 
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