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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
 
店内に流れるビートルズは「ペニー・レーン」が終わり、若干の無音をはさんで、「サムシング」のイントロが流れはじめた。
麻衣の知らない曲だったが、リズムが心地よかったのでしばらく聴き入った。

飲み物とは別に添えられた白い小皿には、星型の小さなクラッカーが二枚のっていて、胡麻の風味がきいた塩味を麻衣は妙においしく感じた。
クラッカーを食(は)みながら父が訊いた。

『白石さんは忙しくされてるのか?』

『うん、忙しいよ。
 おとといから二か所かけもちで、
 撮影するんだって言ってた。
 場所が離れてるから大変なんだって』

父は、おお、そうかぁ、と大げさに驚き、腕を組んでうなった。

『お父さんには、
 ああいう世界のことはわからないんだけど、
 人から求められるものを生み出せるってのは、
 すごい才能と実力がある人なんだろうな』

『本人は運だけだって言ってるわ』

『運も実力のうちだよ』

父はアイスコーヒーをストローで混ぜながら感慨を込めて言った。

『どれだけ人が善くったって、
 運がなけりゃ花は咲かない。
 運ていうのは、
 その人の持つ力だとお父さんは思うなぁ』

ふと麻衣は、いまの気持ちを父にすべて話してしまおうかと思った。
だが、暑いなか、ひとことの文句も言わず自分を待っていてくれた上、顔色を見てすぐに休憩しようと言うような父を、これ以上心配させたくなかった。



 
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